20230727_重ならない

この前、SHHisのワンマンライブに行ってきた。感想というかただの自分語りだけど、ライブを見て感じたことや思い出したことを、メモとして残しておこうと思う。

 


SHHisを知ったきっかけはSNSだ。まだ受験生だった一年前、勉強に疲れて開いたアプリで、『ダンスヤバすぎ』という一言と一緒に投稿されていた緋田美琴のダンス動画になぜだか惹きつけられた。ダンスのことなどなにも分からないが、同じ人間の動きとは思えなかった。気づけば毎日繰り返しその動画を再生するようになり、間違って投稿が消されたらたまらないと自分のスマホに保存もした。その要因の一つには緋田美琴のすらりと伸びた美脚のこともあるが、それについてはまた今度。とにかくそういうわけだから、はじめは彼女が緋田美琴という名前であることも、SHHisというユニットを組んでいることも知らなかった。俺はSNSで知らない誰かにまんまと布教されたわけだ。

だからその隣の子が七草にちかという名前であることも当然知らなかった。後々見た動画でも、彼女のダンスは緋田美琴と比べたら「そこそこだな」と思ったし、なんなら「並べてやるなよ」とすら思ったかもしれない。どうだっただろう。とにかく、SNSではラジオやバラエティでの小生意気な発言などが取り沙汰されることが多く、「パフォーマンス担当の緋田美琴・バラエティ担当の七草にちか」という印象だった。

彼女は、そのことをかなり気にしていたのだと思う。ラジオに出た時や雑誌のインタビューで、しきりに「自分のパフォーマンスに磨きをかけたい」と言っていたのを覚えている(受験生の俺にとってラジオや雑誌の立ち読みはちょうど良い息抜きで、いつのまにか俺はそれまで関心の薄かったアイドルにもそれなりに詳しくなっていった)。言葉の端々から見える上昇志向。ハッキリと言葉にすることはなかったから確証はないが、焦っているように感じたこともある。

そんな七草にちかに対して俺は次第に、分かる、と思うようになった。当時の俺は志望大学の合格判定が低くてクサクサしていたし、このままでいいわけがないという焦りもあった。二つ下の彼女に、そんな自分を重ねていた。

にちかが頑張ってるから。

にちかが上を目指しているから。

誰にも、親しい友人にも言ったことはないが、俺の受験勉強のモチベーションはそれになった。口にするのが恥ずかしかったから、推しは緋田美琴だと言っていたが。実際ビジュアルは緋田美琴の方が好きだ。

『志望校に合格したらライブに行く』。願掛けのようにラジオに送ったメールはついぞ読まれなかったが、とにかくそう決意して死ぬ気で勉強し、俺はなんとか目標の大学に合格できた。そしてようやくやってきたのが先日のワンマンだった。

 


ライブ映像は見たことがあったが、生で見るのはこれが初めてだった。ヤバかった。生の緋田美琴はヤバかった。目が合った気もするが遠くてよく分からない。だけどとにかく、緋田美琴が視線をこちらに向けた時には心臓を掴まれたような気がした。

にちかは、そんな緋田美琴に喰らいつくように歌って踊っていた。スポットライトが照らす。衣装のスパンコールが弾ける。必死だ、と思った。自然な笑みを浮かべる緋田美琴の横で、にちかは余裕ぶった目をこちらに向ける。だけど俺は彼女の努力を知っているつもりだ。その目の奥の向こうに積み重なる執念と焦りを知っているつもりだ。俺もそうだったんだから。同じじゃないことは分かってる。けれどそう思った。そんなにちかのシルエットが網膜に焼き付いて、瞼の裏でも踊り続けるようだった。クールな曲を熱く激しく、しかし涼やかにしなやかに。生のSHHisのそんなパフォーマンスに俺は圧倒された。

 


だから困惑した。

ライブの途中で披露された、にちかのソロのパフォーマンスは〝格好良くなかった〟し〝熱くもなかった〟。明るく楽しい曲を、さっきまでは見せなかった笑顔で披露していた。そこにいるのは、俺がアイドルに詳しくなる前にイメージしていたような、王道のアイドルみたいだ。SHHisのステージに感じたコンセプトとあまりにチグハグに感じたからだろうか。その姿は、俺の瞼の裏にあるシルエットとはどうしても重ならなかった。

続けて披露された緋田美琴の曲が、歌唱力を存分に活かした、彼女のイメージ通りの曲だったから余計にそう思ってしまったのかもしれない。

周りはみんな、当たり前のようにそんなにちかを応援していた。違和感を覚えているのは俺だけか? アイドルってそういうもんなのか? その時の俺は結構、その姿にショックを受けてしまった。トークでは生意気なことを言っても、緋田美琴を神聖視していても、ライブでは格好良いものだとばかり思い込んでいた。あんなのは嫌とか、格好良いところ以外見たくない、そういうのじゃない。ただ困惑して、混乱した。そんな風になる自分にもショックを受けた。

 


ソロパートはそれぞれ一曲ずつで、残りはまたSHHisとしてのかっこいい曲ばかりだった。ショックを受けたことも忘れそうになるくらいの熱量で、最後には次のライブも絶対に来ようと思いながら舞台を降りる二人を見送った。

それでも、帰り道に思い出したのはやはりソロで歌っていたにちかのことだった。そういえばにちかはインタビューで「アイドルが好き」って言っていたな、とか。ソロでも歯を食いしばってるところが見たかったな、とか。あの曲の振り可愛かったな、とか。瞼の裏に、重ならないシルエットを交互に思い浮かべた。

こんな風に思い出せるのはライブでのパフォーマンスを実際に見れたからだと思うと、ライブに来れてよかったな、としみじみした。

家に着く頃には、あれはあれで七草にちかのやりたいことだったのかな、とようやく思えるようになった。まだうまく咀嚼しきれていないけれど。ステージ上に見た必死な顔も、楽しそうな笑顔も、俺の思い込みの何倍もリアルだったから。

なんというか、ようやく?初めて?俺は七草にちかを「見つけた」気がした。

 


ちょっと自分語りしすぎた。要するに、あーーーーライブ行けてよかった。ってことです。また行きます。

 

 

 

 


そういえば、ライブの翌日に友人に「実はにちかのことめっちゃ推してる」と初めて話したら「知ってた」と言われた。とっくにバレていた。